小川糸「とわの庭」

緊急事態宣言、どうせ家から出られない。ならば、本を読むしかねえ。よみたいなと思って勢いで買ったはいいが読めていない本が多すぎる。今こそ減らすときだ。
ようやっと積まれてしまった本を減らすのだから、読んだ本は記録に残しておいた方が良いだろうと思い書きはじめている。

ハードカバーの本でまあまあ時間が掛かるだろうか、と思っていたがするっと読めてしまった。以下、読んだ感想をつらつらと書いていく。

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本の表紙からはあまり想像が付かないくらい壮絶な前半、そしてたくさんの人に支えられて、ひとりの人として生きていく後半の差にめちゃくちゃびっくりした。穏やかな日常がじわじわと脅かされていく感じの前半と、世界はいうほど怖くないんだよ、という感じの後半の差がほんとうに恐ろしい。

「生きていることはすごいことだねえ」と、とわは言うけれど、彼女がそれをいうのはとてつもなく重いことのように感じてしまった。けれど彼女はそれを自然と口にしている。どうして彼女はこんなに穏やかで優しく生きられるのだろう。第三者から見れば重くて辛いはずの人生を生きてきているはずなのに。それも含めて自分だし、今生きている自分は幸せである、そういうふうに過去に囚われすぎずに「今」を大事にできる彼女が少しうらやましくなった。

主人公のとわは目が見えない。だからかもしれないけれど、この物語はとても匂いや手触りを感じる物語だった。当然本なので、ページから匂いがするわけでもないし、紙なので手触りはどのページも同じなのだけれど、どこからか優しい香りがしたり、どぎつい香りがしたり、いきもののふわもこな手触りだったり、お日様にあたったあとのぽかぽかする感じや、冬のきりりとした寒さで鼻の奥がツンとする感じがしたりした。ただの印刷された文字なのに、なんだか不思議な感覚がした。

とわの成長っぷりをみていると、なんだか親戚のおばさんになったような気分になる。彼女の生き方を見ているとすごく応援したくなる。はじめはどうして良いか分からなくて混乱して拒絶もしてしまっていたけれど、だんだん本来の彼女の人柄がでてきて、とても応援したくなった。ほがらかで、素直で、あんまり嫌みなところがない彼女だからこれだけたくさんの人に恵まれたのだろうな、などと思った。こんなに大変な人生をおくっているはずなのに、どうしてこんなに「いいひと」なんだろうなあ。

世の中いろいろと気分の悪いことが起こりがちだし、今もこの状況だから家から出られなくて気分は最悪だけれど、それでも身近なつながりに目を向けてみるとみんなやさしくて、それぞれしんどいこともありつつもそれぞれがんばって生きていて、なんだかんだ悪いことばかりでもないよな。なんてことを読み終わったあとに考えてしまう一冊だった。